能登半島の最北端に位置する珠洲市は、多くの自然と伝統が色濃く残る地域である。海と山に囲まれた地形は穏やかな湾とリアス式の入り江を形成していて、人々の暮らしの基盤となっている。人口規模こそ大きくはないが、ゆったりとした時間が流れ、人々が密につながりながら暮らすコミュニティが保たれてきた。そんな珠洲市では、昔から平屋住宅が数多く姿をみせている。この地では厳しい季節風や積雪、湿潤な気候といった日本海側の自然条件が日常と密接に関わっている。
平屋の住宅は、こうした環境に適応して進化してきた。平屋住宅の最大の魅力は、ワンフロア構造による生活のしやすさである。室内全体に冬暖かな薪ストーブや灯油ストーブの熱を行き渡らせやすく、壁や天井裏の断熱施工も管理しやすい。豪雪・強風にも強く、台風や地震による被害を最小限に抑えやすいという点が、地元での選択理由になっている。また、複数の階層を持たない平屋は高齢者のみの世帯や、小さな子どもがいる家庭にも安心して暮らしやすい形となっている。
地域のつながりや近隣との交流が密接で、家を訪ねる親戚や友人にとっても、段差の少なさや開放感のある間取りが利点といえる。伝統的な建築手法では、周囲の自然と調和するために屋根の勾配や庇の出方に工夫が施されている。たとえば、冬場の降雪や風雨を防げるよう急勾配の切妻屋根や寄棟屋根を採用するほか、調湿や夏場の暑さを和らげるために軒を深く取ることが一般的だ。古くから続く里山の生活では、住宅と庭とのつながりも重視されてきた。平屋の住宅では、窓から臨む田畑や果樹、花壇が一続きになり、室内どこからでも四季の移ろいを楽しむことができる。
菜園や作業小屋が同一敷地内に設けられ、家庭菜園や自作の保存食の煮炊きなどの活動も暮らしの一部となっている。木造の産地でもあるため、地元で伐採された杉やヒノキなどが構造材・内装材・床材として使われ、手触りや香りが日常生活にぬくもりを与える。意匠性の面においても、山から切り出した梁や、伝来の左官技法による土壁、目透かしの障子戸など、昔ながらの技法も現代的なアレンジが加えられて住民の生活に根付いている。一方で耐震基準や省エネ基準をクリアした現代的な平屋住宅も徐々に普及しており、断熱サッシや高気密高断熱な建材が使われている住宅が増えている。このような住宅は永く住み継がれるために補修や改築が繰り返されることも多い。
地域独自の技術を持つ大工や職人が、柱の組み換えや床下補修、壁の塗り替えなど細やかな手入れを行っている。これらの住宅は一世帯にとどまらず、子や孫に残す“資産”としての側面を持つ。風土とともに歩み、家族の思い出が積み重なった平屋住宅は、他の都市部の住宅とは一線を画す情緒とぬくもりが感じられる空間を生み出している。住宅事情の面から見ると、働き手が市街化した現代でも定住人口の確保のために住環境が重視されている。定住促進の一策として空き家を改修し、一世代向けから二世代同居型へ改造する取り組みも目立つようになった。
また、都市部から移住を希望する世帯向けに、平屋をベースにしたコンパクトながら機能的な住宅が注目されている。家計負担の軽減や維持コストの最小化を重視しつつ、安全で快適な住まいを目指した設計が浸透する兆しが見られる。うつろう季節とともに連なる田園風景、深い山の緑、青い海原がみえる珠洲市の環境は、自然と共生する平屋の住宅にとって大きな価値となっている。地元に残念ながら訪れる機会は少ないが、こうした住宅文化が受け継がれ、次代へと住環境と文化が共存するまちづくりが行われている事実は、都市部にはない芳醇な魅力を孕んでいる。今後の住まいづくりについても、単なる便利さや効率性だけではない、「地域風土に根ざした住まい」をいかに保持してゆくかが課題となる。
珠洲市の平屋住宅文化の核心には、自然への敬意と、そこに根付く家族・コミュニティの絆を大切にするという精神が息づいている。住宅が単なる「建物」にとどまらず、暮らしや営みの根幹をなす場所として、これまでも、これからも珠洲の風景を形づくっていくのである。能登半島最北端の珠洲市では、自然と伝統が現在も色濃く残り、平屋住宅が地域の暮らしを支えてきた。厳しい季節風や積雪といった日本海側特有の気候に合わせて、平屋はワンフロア構造の快適さや耐久性、断熱性の高さが重視されている。高齢者や子育て世帯が安心して暮らせる間取りも地域に根づく特徴であり、また、自然と調和する屋根や庇の工夫、深い軒の設えなど、伝統的な建築技法も現代生活に合うよう受け継がれてきた。
住宅と庭や菜園が一体となった空間は四季の移ろいや生活の豊かさを感じさせ、地元産の木材や土壁など自然素材を活かすことで、住まいに温もりを与えている。近年は耐震・省エネ基準に対応した新しい平屋住宅も普及し、空き家の改修や移住希望者向けの住まいづくりも盛んとなっている。こうした住宅は、世代を超えて住み継がれ、地元の大工や職人が手入れを続け、家族や地域の絆とともに資産として大切にされている。市街化や人口減少の課題を抱えながらも、珠洲市では「風土に根ざした住まい」を守り続ける意識が強く、自然と共にある暮らしや家族・コミュニティを大切にする精神が住文化の核心となっている。住宅が単なる建物ではなく、地域の風景や暮らしそのものをかたちづくる存在となっており、珠洲ならではの豊かな魅力を今も未来へと継承している。